スウェット:快適さとタフさを生む編み目の秘密
休日の朝に袖を通すスウェットシャツや、お気に入りのロゴTシャツ。
私たちの暮らしに一番近く、緊張をほどいてくれるのが「スウェット」や「天竺(てんじく)」と呼ばれるコットン生地です。
デニムやチノパンが「ガシッとした頑丈さ」を持つ一方で、なぜこれらは驚くほど柔らかく、びよんと伸びて体に馴染むのでしょうか。その秘密は、糸の並べ方が「直線の組み合わせ」ではなく、無数の「輪っかの繋がり」だからでした。
1. 「スクラム」を組む服、 「知恵の輪」で繋がる服

服の生地には、大きく分けてふたつの種類があります。ひとつはデニムやチノなどの「織物(カットソーではない布帛)」。もうひとつは、スウェットやTシャツなどの「編物(ニット)」です。
織物がタテ糸とヨコ糸をまっすぐ交差させ、全員でギュッと固く腕を組む「スクラム」のような構造だとしたら、編物は1本の糸でループ(輪っか)を作り、それを次の輪っかに引っ掛けていく「知恵の輪」のような構造です。
引っ張ると、この無数の輪っかが変形して隙間が広がるため、ゴムが入っていなくても生地自体が「びよん」と伸び縮みします。さらに、輪っかのなかにたっぷりと空気をため込めるため、肌触りが柔らかく、着た瞬間にホッとするような心地よさが生まれるのです。
スウェットが「ふっくら暖かい」のは、3本の糸のチームワーク

表側と裏側の役割分担
スウェット(裏毛)は、実は3本の糸を同時に編み込む特殊な構造をしています。表面をきれいに整える「表糸」、裏側のループを作る「裏糸」、そしてその2本を真ん中でしっかりと繋ぎ止める「中糸」の3層です。
タオルのような空気のクッション
裏側の糸をわざと大きくループさせることで、タオルのような凸凹が生まれます。これが肌にかかる衝撃を吸収し、体温を逃がさない「空気のクッション」になります。さらにこのループをトゲのあるローラーで毛羽立たせたものが「裏起毛」であり、より多くの空気を抱え込めるため冬でも抜群に暖かくなります。
2. 縮みと戦った「リバースウィーブ」という大発明

昔のアメリカで、スポーツウェアとしてスウェットが使われ始めた頃、ひとつの大きな問題がありました。それは「洗うと激しく縦に縮んでしまい、丈が短くなっておへそが出てしまう」ということ。コットンの編み物は、構造上どうしても縦方向にギュッと縮みやすい性質があったのです。
そこで1934年、チャンピオン社がある天才的なアイデアを思いつきます。「縦に縮むなら、生地の向きを横(リバース)にして編んで(ウィーブ)しまえばいい」という発想でした。これが、ヴィンテージ市場で今も高い人気を誇る「リバースウィーブ」の始まりです。
本来と向きを90度変えて仕立てたことで、縦の縮みは見事に解決しました。しかし今度は「横に伸びにくくて動きにくい」という問題が出たため、両脇にリブ(伸縮する網目)をはめ込みました。あの独特なサイドリブのデザインは、縮みを克服し、動きやすさを諦めないために生まれた、引き算の機能美なのです。
3. 脇の縫い目がない「丸胴」がもたらす、ねじれの美学

スウェットよりも細い糸を使い、もっとシンプルに編み上げたのが、Tシャツでおなじみの「天竺(てんじく)」です。
ヴィンテージのTシャツやスウェットをよく見ると、お腹の両脇に「縫い目」がないものがたくさんあります。これは「丸胴(まるどう)」と呼ばれる仕様で、平らな布を切り貼りするのではなく、人間の体と同じ「丸い筒の形」のまま、古い機械でゆっくりと編み上げているからです。
脇に縫い目が当たらないため肌に優しく、ストンときれいなシルエットが出ます。そしてこの丸胴の服を何度も洗うと、糸がねじれる力(斜行)によって、全体が少しだけ斜めに歪んでいきます。「歪むのは不良品」と思うかもしれませんが、このわずかなねじれが生地に立体感を生み、古い服にしか出せない、なんとも言えないこなれた雰囲気を醸し出すのです。
ただ楽だから着るのではなく、その編み目のなかに、動きやすさを求めた工夫や、縮みを防ぐための歴史が詰まっているスウェット。知恵の輪のように繋がった糸のぬくもりを感じながら、自分だけの心地いい一着を、ゆっくりと身体に馴染ませてみてください。